松田聖子「Let's Boyhunt」楽曲研究~歌いやすさとカッコよさの両立~
こんにちは、研究員第一号のいっきゅうと申します!
今回は「Let`s Boyhunt」の楽曲研究です!
この曲はとてもポップでキャッチーなので好きな方多いんじゃないでしょうか。かくいう僕もほんとに好きで、シャッフル再生でこの曲が巡って来ても大抵スキップしません。ということはスキップする曲もあるということ?
作曲の林哲司さんの曲は良いのが多くて(聖子ちゃん以外も含め)、僕はすごく好きなのが多いんですよね。ここでは、「Let`s Boyhunt」の魅力をできるだけ伝えられたらいいなあと思っています!(*´▽`*)
それではコード進行を見ていきましょう。
1.イントロ
キーはA♭です。
|A♭ B♭m7onA♭ A♭|A♭|×4の後
|A♭|E♭onA♭|G♭onA♭ |B♭m FmonC B♭monD♭ E♭|Aメロに続く
1.1スラップ奏法でよりリズミカルに
最初の8小節、ベースがスラップ奏法でノリを作っています。スラップ奏法についての説明をWikipediaから引用してみます。
親指で弦を叩くようにはじく動作=サムピング(英: thumping)と、人差し指や中指で弦を引っ張って指板に打ちつける動作=プリング(英: popping)があり、この二つの動作を組み合わせる事で打楽器のようなパーカッシブな効果が得られる。
この曲のイントロの場合、基本的にオモテ拍ではミュート(休符)、ウラ拍でプリングをしているわけですね。
よりベースの打楽器性が強調される形になります。
(ほぼA♭で固定しているのも、よりドラム的な役割をさせたいと考えたからではないでしょうか。)
また、シンコペーションをしたりして間延びしないように工夫されています。
「拍」やシンコペーションについてはこちらの記事でより詳しく説明していますので、未見の方は是非(´ー`)
seiko-laboratory.hatenablog.com
ただ、スラップ奏法はやりすぎたりバラードな歌のバックで演奏すると、歌の邪魔になってしまうので、やりすぎは禁物です。何事もほどほどが一番ってことですね。(*>∇<)ノ/
1.2 ♭Ⅶ
赤字で書いたのはこのブログを毎回見てくれている人(そんな人いるのか?)にはお馴染みの♭Ⅶ、非ダイアトニックコードですね!(^。^)y-.。o○
そしてやはりお馴染みの、同主短調からの借用和音です。
つまり、この場合だとキー=A♭mのダイアトニックコードを使っているということです。(@_@)
これについてはこちらでより細かく解説していますよ!(*'ω'*)
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2.Aメロ
キーは同じくA♭です。
|A♭ Cm B♭m|B♭m |A♭6|A♭M7 A♭6|×2
Bメロに続く
Aメロに入って、ベースも動きを見せ始めました。順調に面白くなってきましたね。('◇')ゞ
2.1最低限のルール
ベースが単にルート音を弾いている訳ではなく、独自のメロディラインを構成してますね!
聖子さんが歌うメロディラインと、ベースのメロディラインの二つがあることで聴き手も飽きずに勢いを保ったまま聴くことが出来ます!
また、ベースラインはテキトーに弾いているわけではなく、最低限のルールを守って演奏しているのが聴いていてよく分かります。
今回で言えば、コードチェンジと同じタイミングできっちりルート音を弾いている点。
A♭に変わった拍でAを、Cmに変わった拍でCを、B♭mのときも4拍目のウラにきっちり合わしています。
バンド全体で合わせるところはきっちり合わせないと、曲に締まりがなくなるし一体感もリズム感もあったもんじゃありませんよね。( ;∀;)
3.Bメロ
キーはA♭です。
|B♭m|E♭onG|Cm|F7(♭9) |B♭m D♭|D♭|E♭| E♭ A♭|サビに続く
最後のA♭はサビの始めのコードがシンコペーションしてるだけです。
3.1ベースは出しゃばらない
Aメロとはうってかわってベースがおとなしくなりましたね。
ここは、聖子さんの歌声を存分に聴かせるところなので、ベースは陰で見守るぐらいがちょうどいいのです!(´・ω・`)
ただ、ここでもベースラインで一つ「上手い」と思うところがあって、それが「E♭onG」の部分です。
これだけ見れば単なる転回形*1なんですが、大事なのはその「前後」なんですよ。(まあ今回は後の方が大事かな。)
ベースの動きだけ見ると、「G→C→F→B♭ 」のようになるのですが……何かに気付きませんか……?
「ではそこで居眠りしている田中くん、答えてください。(;^ω^)」
……というのは冗談ですが、画面の前の皆さんも一応考えてみてくださいねヾ(@⌒ー⌒@)ノ
答えは番組の最後に発表!!! これがやりたかっただけ。
3.2一時的にキー=B♭mに転調
「F7(♭9) →B♭m」のところです。 歌詞で言うと、
カップルたち
の部分ですね。
ここで一時的にB♭ハーモニックマイナーに転調しています。
ハーモニックマイナースケールについてはこちらの記事でも触れています。(´・ω・`)
seiko-laboratory.hatenablog.com
3.3たった一文字、されど一文字
Ah リフトを待つ
カップルたち
この辺りをコードの機能とともにより深く掘り下げてみましょう。
まず、AhがⅡmで「リフトをま」がV(ドミナント)、「つ」がⅢm(トニックⅠの代理コード)、ということでツーファイブワンの形になっていますね。
「リフトをま」で不安定さを感じ、「つ」で少し解決感を感じ落ち着きます。ですが、代理コードなのでまだちょっとふわっとしてますね。
次も見てみましょう。
「カップルた」でF7(♭9)(セカンダリードミナント)、「ち」でB♭m(仮のトニック)ということでここでもドミナントモーションが出来ています。
「カップルた」でまた不安定になり、「ち」で少し落ち着く、がまだふわっとしてる。(しかもマイナー感があり、今度はどこか哀しげ)
この不安定さ、ちょっとしたジェットコースター感が歌詞と合っていて、主人公の心情の揺れ動きを見事に表現していると思います。
シングルガールである主人公はリフトを待ちながらイチャイチャしているカップルを見て、つまらなさや哀しさなどいろいろな感情を持つでしょう。
この主人公が感じるモヤモヤ感を聴き手は音楽を通して追体験するわけです。
そして、このモヤモヤ感を吹き飛ばすがごとく、サビでは軽快にポップに爆発させます。
ちなみに、ツーファイブワンやドミナントモーション、セカンダリードミナントについてはこちらの記事で説明してます。
seiko-laboratory.hatenablog.com
4.サビ
キーは同じくA♭です。
{|A♭ Cm7 D♭ B♭m7|B♭m7 A♭|A♭ Cm7 D♭ B♭m7|B♭m7 A♭|A♭ Cm7 D♭ Dm7(♭5)|Dm7(♭5) G7(♭9) Cm|}Cm |E♭ A♭|
一度最後までいって、{}内をもう一度繰り返した後、
|Cm F|F|B♭m7|E♭|
この後、間奏に入る。
4.1「歌いやすさ」と「カッコよさ」を両立したメロディ
出てきましたね、「Ⅱm7(♭5)→Ⅴ7(♭9)→Ⅰm」が!
マイナーキーにおけるツーファイブです。(*'ω'*)
この場合、キー=Cmに一時的に転調しています。
この曲では「Dm7(♭5)→G7(♭9)→Cm」の部分。特に最初のDm7(♭5)は意外性抜群でこの曲において大きなアクセントになっています。(わりと急に転調しているうえに、元々耳に残るようなコードですからねヽ(^o^)丿)
「Ⅱm7(♭5)→Ⅴ7(♭9)→Ⅰm」についての詳しい説明はこちらで行っていますので、良かったらご覧ください!
seiko-laboratory.hatenablog.com
さて、この記事でも言った通り、「G7の♭9th」は「Dm7(♭5)の♭5th」でもあるのですが、この曲のツーファイブ部分のメロディにまさにその音(A♭)が使われています。
歌詞でいうと、
こちらからは誘っちゃだめ
の「は~」の部分と「っ」の音がそれです。
つまり、「Ⅱm7(♭5)→Ⅴ7(♭9)→Ⅰm」のチャームポイントである音をメロディに使うことによって、より「マイナー感」を強めているわけですね。ヾ(@⌒ー⌒@)ノ
また、いきなり転調したりすると音程をとるのが難しかったりしますが、この曲では歌いやすいようにきちんと考慮されています。
「こちらから」の「か」で予めA♭を通っておくことで(この時点ではコードの構成音なので難しくない)転調してからもスムーズにA♭の音をとれるようになっています。
大きな跳躍もなく、基本的に隣の音に段階的に進んでいるのも歌い手にとっては助かるでしょう。
それを踏まえたうえで、「Ⅱm7(♭5)→Ⅴ7(♭9)→Ⅰm」の部分を聴くと、ここのメロディの特徴がよく分かると思います。(*´ω`)
5.間奏
キーはA♭です。
|A♭|A♭ |D♭|Dm7(♭5) |A♭onC|F|B♭onD| CmonE♭|(細かいテンションノートは省略しました)、イントロに続く。
この曲では間奏になるとともに4拍子から6拍子に変わります。
曲中で拍子を変えることで緩急をつけているんですね!
以前書いた記事のなかでは、「LOVE SONG」なんかも途中で拍子が変わっていましたね。(*'ω'*)
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6.全体総括
いや~いいですね!
やっぱり特にサビ!メロディ、コード、リズム、そして歌詞までもが上手くかみ合ってるからすんごいエクスタシーがある。
あと、ついつい口ずさんでしまうメロディ。これって結構大事なことかも知れない……。(。-`ω-)
「レッツボーイハント」を何回も繰り返すのもいいよね。いわゆる曲の「キメ」のところだし、一発で歌詞とメロディ覚えるし。うん。繰り返しは大事。めちゃめちゃ大事。
あ、そうそう。
ここで、「Bメロ」の項で出した問題の答えを紹介します!!
わざわざE♭onGという転回形を使って「G→C→F→B♭ 」というベースラインにした驚愕の理由に一同涙……!!!(youtuberサムネイル風)
まあここまで読んでくださった方はもうお分かりですよね。
そうです。強進行です。
言い方を変えれば、「G→C→F→B♭ 」の間は常に完全4度上行(もしくは完全5度下行)になっているのです。
強進行は、トニックへ解決する流れがより強くなります。
そして、それを連続させることでよりスムーズに曲が流れ、大きな推進力となるのです。
転回形を使うときは、このようにベースラインをスムーズにさせるための場合が多いです。転回形を見つけたらその「前後」のベースラインを確認しましょう!
この曲や記事についての感想、不満、そこの理論orコード間違ってるよバカ、とかとかもし何かあったら気軽にコメントどうぞ。(*´▽`*)
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*1:構成音は同じだけど、ルート音が違う。より詳しく知りたい人はググってください