松田聖子「Gone With The Rain」楽曲研究~いわゆる切ないメロディはどのようにして生まれるのか~
Good Morning!And in case I don`t see you,good aftarnoon,good evening and good night!
……これが何のセリフか分かる人は恐らく映画好きですね。
さて、僕は研究員第一号のいっきゅうと申します!
ついこの前、名古屋の聖子ちゃんのライブ行ってきましてね、いや~これが本当良かったんですよ、もうあの時の多幸感たるや。。。
それは置いといて、早速本題に参りましょう。
今回は「Gone With The Rain」の楽曲研究です!
1997年12月に発売された曲です。1997年といえば、ちょうど僕の生まれた年なんですよね~。
だから何だって話ですが、やっぱりちょっとそういうのって意識してしまう。_(:3」∠)_
……この曲、噂によると聖子ちゃんも好きな曲らしいです、噂によると。
僕も結構好きなんすよね~いや~聖子ちゃん趣味が合いますね~_(:3」∠)_
作詞seiko matsuda、作曲seiko matsuda & 小倉良、編曲:鳥山雄司 です。
では、いつものようにコード進行を見ていきましょう。
なお、忙しくてあまり時間が取れない人は一気に目次からチャプター4に飛んでください。その辺りが一番のメインなので。。。
1.イントロ
キーはAです。
|A DonA|EonA DonA|×3の後
|A DonA|EonA DonA|A DonA A DonF#|DonF# EonG# |Aメロに続く
トニックのA、サブドミナントのD、ドミナントのE、基本である三つのコードをギターで演奏して非常に落ち着いたイントロになっていますね。特に言及することもないので次いきましょ(/・ω・)/
2.Aメロ
キーは同じくAです。
前半
|A |EonA DonA|A|EonA A EonG#|F#m|AonE|G|D|A DonA|EonA DonA|
赤字のGは♭Ⅶであり、この曲においては一時的にキー=Dに転調したと考えるのが自然でしょうか。(多分作曲者はあんまり深く考えてないと思います)
後半
|A |EonA DonA|A|EonA A EonG#|F#m|AonE|GM7|D Dm|A DonA|EonA A|
Aメロ後半から聖子ちゃんのセルフコーラスが入り、ゆっくりと曲のボルテージを上げていきます。Dmなんか入れたりしちゃって前半との差別化を図っているのが分かります。
3.Bメロ
キーは同じくAです。
|G|D|A A7|A7|G|DonF#|G#m7 C#7| C#7|サビに続く
Aメロでも登場したG→Dの流れの意味は先ほど説明した通り。
赤字のA7はセカンダリードミナントであり、「Dを仮のⅠ(トニック)とみなした時のV7(ドミナント)」です。(´▽`)
要はここでも一時的にキー=Dに転調しているわけです。
そういうわけで、キー=DにおけるサブドミナントのGをA7の次に持ってきている、と。
ちょっと素直じゃないけどこれくらいはコード進行界隈(なんだそれ)では日常茶飯事です。(-。-)y-゜゜゜
「セカンダリードミナント」についてはこちらの記事でも取り上げています!時間があったら是非!( ^^) _旦~~
seiko-laboratory.hatenablog.com
4.サビ
短三度下に転調してキー=F#マイナー(ハーモニックマイナースケール)です。
|DM7|C#7 F#m|G#m7(♭5) C#7(♭9)|F#m Em7 A
|DM7|C#7 F#m|DM7 AM7onC#|Bm |Asus4onE|
4.1ハーモニックマイナースケールについて
サビではハーモニックマイナースケールが使われているのですが、ここではそれについて簡単にだけ説明します。ちょっとややこしいんで読み飛ばしてもらって構いません。多分分かりやすい動画とか探せばあると思うんで。(´ー`)
結論から言ってしまえば、「ナチュラルマイナースケールの第7番目の音を半音上げたもの」です。
なぜ、わざわざそんなことをするのかと言うと、そうしないとドミナントモーション時の解決感が薄いからです。
ナチュラルマイナースケールの時のドミナントはVm7であり、ドミナントモーションに必要不可欠な「トライトーン」*1が存在しません。
そこで、「ナチュラルマイナースケールの第7番目の音を半音上げて」V7になるようにし、「トライトーン」を持たせ、ドミナントらしい解決感を作ったのです。
「トライトーン」がなぜ必要不可欠か?不協和な二つの音がそれぞれ半音進行して協和な音程に変化する、それこそがドミナントモーションによる解決感の原因だからです。
4.2マイナーキーにおけるツーファイブ
来ましたね!!!
今回の山場part1が!!!
G#m7(♭5) →C#7(♭9)→F#mに注目!
もうね、僕からしたら正に「実家のような安心感」ですよ。
これはキー=F#マイナーにおけるツーファイブです。
C#7(♭9)のテンション♭9th(この場合、Dの音)が重要で、トニックの5度の音に半音進行する音を補っています。
また、この♭9thはG#m7(♭5)の♭5thでもあるので、しばしばこの音はペダルポイント*2として使われます。実際にこの曲でもこの音(Dの音)はコーラスが歌っている部分で、しっかりとペダルポイントになっています。
以上のマイナーキーにおけるツーファイブについての話は、Ⅱm7(♭5)→V7(♭9)→Ⅰm7 として一般化できます。(*'ω'*)
4.2キャラクタリスティック・ノート(アボイド・ノート)をメロディに使う
これが今回一番の山場です!
上記のG#m7(♭5) の時のメロディについての話です。
歌詞で言うと「だ~れより~も~」の「だ~」の部分。
例によって結論から言ってしまうと、この「だ~」、アボイドノートを使っているんですよね。
アボイド・ノートってのは、アベイラブル・スケール(各コードで使用可能なスケール)上で、使用するとき注意しなければならない音のこと。
ボイシングの際には使ってはいけませんが、メロディなどに短く使う分には割と問題ありません。
この曲の場合、G#m7(♭5)で使われるスケールはロクリアン(Locrian)であり、2番目の音、つまりAの音がアボイド・ノートに当たります。(ルートのG#と半音でぶつかっているからです)
ですが、「だ~」はAの音なんですよね。(まあ、厳密に言えば一瞬G#の音から始まってAに上がっている、そしてその後「れーよ」でG#に戻るので刺繍音としてAを使っているとも言えます。)
この曲ではわざとアボイド・ノートのAの音を、しかもサビのいっちばん盛り上がるところで使っています。いや~うまい!うますぎる!十万石饅頭。
このアボイド・ノートは本当に取り扱いが危険で、使いすぎると不協和すぎて訳わからんくなったりします。
が、ここぞという時に使えば曲のイメージを印象付けたり、フックになったりするんですなあ。(-。-)y-゜゜゜
こんなのをAメロとかから使ってたら興ざめ。ここぞという時に使うから効果的。
アボイド・ノートはそれぞれのスケールの響きを印象付けるという効果もあり、この曲の場合、ロクリアンの雰囲気をより強調していることになります。
ロクリアンというのはとてもマイナー感の強い(というか一番)モード*3で、なんというか暗いというか切ないというかそんな感じがします。(俺調べ)
そこにさらにアボイド・ノートを使ってロクリアンをより濃くするわけです。水よりカルピスの原液の方が多いって感じです。
結果、切な~いサビの出来上がりってわけですよ。くう~たまらん!
しかも考えなしにこのようなことをしたわけではなく、ちゃんと歌詞とリンクしています。
愛していたわ
誰よりもずっと…
誰よりもずっとあなたのことを愛していたのに…という切ない歌詞と相まって感情が爆発しています。聖子ちゃんの歌からも哀しみが伝わってくる、さすが上手い。これぞ音楽の力!(; ・`д・´)
5.大サビ
キーはA。
|DM7|AonC# |Bm DonE AonC#|DM7|C#7 F#m |DM7 AonC#|Bm|DonA|A DonA|......後はイントロと同じ。〆のコードはA。
どうでしょう。前のサビよりちょっと明るい感じがしますよね。(*´ω`)恐らく意図的に、曲の物語に合わせて雰囲気を変えているんですね。
この雨に流すのよ
あなたへの想いすべて
泣けるだけ泣いたら
新しい私になれる
今までは失恋の哀しみを歌ってきましたが、この大サビでついにそれを乗り越えるわけです。
正にクライマックスです!
新しい私になるというポジティブな場面なので、当然明るい曲調がベストでしょう。
今までのマイナー感たっぷりのサビと対比することによって、よりここでのハッピー感が際立つのです!!!
もちろん、大サビが比較的明るい原因はメジャー系のコードを多用しているからです。キーもAメジャーに変わったと考えていいでしょう。
6.全体総括
……はあ、疲れた。。。今時計見たら深夜2時をまわってたよ。もう力尽きたよ。疲れたよ、パトラッシュ。。。
今回、やっぱりサビのメロディが好きですね。上記の通り、敢えてアボイド・ノートを使うっていうアレ。聴いてて引っかかる部分だから、良くも悪くも癖になるんですよねー。(。-`ω-)
あとはまあ、上では書かなかったけどイントロでEの音がペダルポイントになっていたり、細かいところのシンコペーションとか書こうと思えばこれの3倍ぐらいはいけると思うけどきりがないんで書きません。。。
欠点を挙げるとすれば、リズム的な面白みに欠けるというかノリがないってとこですかね。でもそれを期待するような曲でもないし、やっぱりどうでもいいかも。
タイトルを最後の最後で回収するという手法もお見事ですね。
歌詞も主人公の葛藤、成長ともにちゃんと描かれていて個人的には良いと思います!
……ということで、「Gone With The Rain」 おすすめです!!!