松田聖子「今夜はソフィストケート」楽曲研究~「不安定」を演出する
こんばんは、研究員第一号のいっきゅうと申します!
皆さん、「ソフィストケート」という言葉の意味を知っていますか?
実は僕もよく知らなかったので調べてみたところ、
[名](スル)《「ソフィスティケイト」とも》趣味、考え、態度などが都会的に洗練されていること。「ソフィスティケートされたもてなし」
だそうですよ!「今夜は都会的に華麗に振る舞うわ♪今までの私とは違うのよ!」って感じでしょうか。(*'▽')
さて、前置きはここら辺にしておいて、今回は「今夜はソフィストケート」の楽曲について研究しようと思います。
前回、歌詞について考察、研究したので今回はいよいよ楽曲そのものについて言及するわけですね!
では早速始めましょう!
作詞は松本隆さん、作曲は佐野元春さん、編曲は大村雅朗さんです。
キーはA♭です。
1.イントロ
ドラムから始まり、「ジャーン」と不思議な感じのコードが鳴るのが印象的なイントロですね。(´▽`)
恐らくこのコードは
「E♭aug」
だと思われます。(augはオーギュメントと読みます)
オーギュメントとは、メジャーコードの完全5度が半音上がっただけのもの。
この場合、E♭の5thの音(つまりB♭)が半音上がってBになっているだけです。
ここでのオーギュメントの役割を考えると、次にA♭に進むことから、ドミナントの代理ではないかなと考えます。
普通は「E♭」を使うところをあえて「E♭aug」を用いて初っ端からインパクトを残しているわけです。
そして、ドミナントからAメロに入ってトニックのA♭に解決しているので、歌が始まると同時に解決感及び安心感が押し寄せてくるわけですね。( ^^) _旦~~
また、「E♭aug」の構成音は「E♭,G,B」であり、A♭の構成音は「A♭,C,E♭」であるので、「G→A♭」「B→C」がそれぞれ半音進行、E♭はそのままとスムーズな動きができています。
2.Aメロ
| A♭ | Fm |B♭m B♭mM7 |B♭m7 B♭m6 | E♭ | E♭ | B♭m Cm | D♭ E♭ | A♭ | Fm |B♭m B♭mM7 |B♭m7 B♭m6 | E♭ | E♭ | B♭m E♭ A♭ |
2.1ラインクリシェ
「懐かしいベル」の部分の|B♭m B♭mM7 |B♭m7 B♭m6 |ではラインクリシェというテクニックが使われています。
簡単に言うと、「コードの構成音の中のどれかの音を半音ずつもしくは全音ずつ動かしていく」というものです。
同じようなコードが続いて退屈になりがちな時、味付けとしてよく使用されます。
聖子ちゃんの曲でも「渚のバルコニー」「レモネードの夏」「瞳はダイアモンド」「Kimono Beat」などで使われてますね!
この場合では、「B♭→A→A♭→G」というようにコードの構成音が半音ずつ下がっています。
2.2ツー・ファイブ・ワン
Aメロの最後の| B♭m E♭ A♭ | では
ツー・ファイブ・ワン
という頻出のコード進行が出てきています。
| B♭m E♭ A♭ |を| IIm V I |と置き換えると分かりやすいと思います。
厳密にいうとツー・ファイブ・ワンは「IIm7→ V7→ IM7」のことだと思いますが、この曲のこれもツー・ファイブ・ワンと言ってしまっても別に問題ないでしょう!
IImはサブドミナントの代理、Vはドミナント、Iはトニックの役割を持っていますね。
なぜ、このツー・ファイブ・ワンがよく使われているのかというと、
ルート音の動きが完全4度上行(もしくは完全5度下行)になっているからです。
これを強進行といい、トニックへ解決する流れがより強くなります。
3.Bメロ(サビ)
|D♭ E♭|E♭ |A♭ Cm7(♭5)onG♭ F7|F7 |B♭m | E♭7 | A♭ | A♭7 |B♭m7, E♭|E♭ |A♭ Cm7(♭5)onG♭ F7|F7 | B♭m | E♭7 | A♭ |E♭aug | 再びAメロに続く
3.1セカンダリードミナント
このBメロでいうと、「F7」と「A♭7」がセカンダリードミナントとして使われています。
I(トニック)以外のダイアトニックコードを仮のI(トニック)とみなして、その仮のI(トニック)に進行するV7を仮のI(トニック)の前に挟むことができます。
一時的に転調しているものだと考えることもできます。ノンダイアトニックコードゆえに緊張感があり、少し不安定な響きがします。
まあ、「百聞は一見に如かず」ということで、実際にこのBメロでの|F7 |B♭m|を見ながら解釈していきましょう。
この場合、B♭mを仮のI(トニック)とみなし、その仮のI(トニック)に対してのV7(ドミナント)としてF7を置いています。
この「F7」が鳴っている時、一時的にキー=B♭に転調していると考えることもできるのです。
また、| A♭7 |B♭m7, E♭|の部分もA♭7も同じようにセカンダリードミナントです。(ちょうど「ワーイーン」のところですね)
この場合は、D♭を仮のI(トニック)とみなし、その仮のI(トニック)に対してのV7(ドミナント)としてA♭7を置いています。
この「A♭7」が鳴っている時、一時的にキー=D♭に転調していると考えることもできるのです。
いや、でもD♭じゃなくてB♭m7になってるじゃないか!!(; ・`д・´)
と思った方もいるかもしれませんが、B♭m7の構成音にはしっかりとD♭が入っているので問題ありません。仮のI(トニック)のD♭の代理コードとしてB♭m7を使っていると考えてもいいでしょう。(D♭をIとしたときB♭mはVImとなり、トニックの代理として使えます)
このように所々にセカンダリードミナントを挟むことによって、サビが不安定と安定の連続になり、聴く人を飽きさせないようにしているんですね!
それと、主人公の心情の不安定さを曲の雰囲気でも表しているのかもしれません。(@_@)
涙をこぼさないように踊っているわけですからね。。。
3.2「IIm7(♭5)→V7→Im」の解釈
この曲の|A♭ Cm7(♭5)onG♭ F7|F7 |B♭m |の「Cm7(♭5)on→F7→B♭m 」の部分の解釈について。
歌的には「困らせてあげる」や「取り上げないで」の後ですね。
結論から言うと、ここではB♭mを仮のIとみなし、Cm7(♭5)on→F7(IIm7(♭5)→V7)はツーファイブの動きをしています。
セカンダリードミナントのV7の前に、仮のIに対するIIm7のコードを入れて、
仮のIから見て「IIm7→V7→Im」というツー・ファイブ・ワンの動きを作ることができます。
ちなみに、このときのIIm7をリレイテッド・ツー・マイナー7(Related IIm7)と呼びます。
また、この場合ではキーは一時的に(IIm7→V7のとき)B♭mとなり、使用スケールはHmP5↓(ハーモニック・マイナー・パーフェクト5th・ビロウ)で、スケール上のダイアトニック・コードを使って「IIm7(♭5)→V7」となっています。
つまり瞬間的にマイナー調に変わっているので、この部分は少し胸がきゅんと締め付けられるというか、切ない感じになるんですよね。
聖子もちゃんとこのような曲の特徴を理解して、「取り上げないで」のときは本当に胸が締め付けられているかのように、少し苦しいような、切ないような歌い方をしているんですよね。
で、その歌い方なんだけど
絶妙なんだよね!!これが!!
ここら辺の歌での繊細な表現においては、聖子の右に出る者はいないんじゃないかってぐらい上手い。(さすがに言いすぎかな?でも割と僕は本気でそう思ってる)
しかも自分勝手な解釈で表現してるわけじゃなくて、ちゃんと歌詞と曲に合わせて歌の感情を表現してますからね。
聖子に歌わせる裏方たちもさぞかし楽しいでしょうよ、うん。(。-`ω-)
4.Cメロ
| A♭m onB E♭sus4 onB♭ |A♭M7 AM7 A♭M7 | B♭m |A♭ | B♭m | A♭ | Cm7 | Cm(11,13) onF | B♭m | E♭7(9) |E♭ | 再びAメロに続く
うーん、特筆すべき点が特に見当たらないので困ってます。
しいて言えば「B♭m→E♭7(9)」がツーファイブであること。
それから、| Cm7 | Cm(11,13) onF | B♭m |の部分のベースが強進行になっていてスムーズに進んでいますね。
このように分数コードを使ってベースの動きを明快にするのは上手いですね(多分大村さんがやったんじゃないかなと思いますが)
「A♭M7→AM7→A♭M7」は理論どうこうというより、ただ単に平行移動して聴いてかっこいい感じにしただけな気がする(笑)。
要は極論、聴いてみていい感じならばそれでいいわけで。(-.-)
5.まとめ
「今夜はソフィストケート」についてはこんなところでしょうか。
今回はあまり触れませんでしたが所々でブルーノートを刺繍音や経過音で使ったりしていたのも印象的でした。
また、キーアイテムであるワイングラスを強調するためか、「ワーイーン」の部分がこの曲のメロディーで最も高い箇所で、そういう所も含め歌詞と曲が上手く連動しているなと思います。
そしてこの一番盛り上がるはずの「ワーイーン」の部分も I7 を使うことでブルージーな響きを持つというか、どこか影がある雰囲気になっています。
この曲自体、終始どこか影があるような、そんな雰囲気を醸し出しています。
歌詞研究でも言いましたが、結構切ない歌詞なので(前作のハートのイアリングも相まって)雰囲気はとても合っていますね。
seiko-laboratory.hatenablog.com
ソフィストケートという言葉通り、歌詞、曲ともに都会的で洒落ていて僕はまあ嫌いじゃないです。
是非今回の記事を踏まえて、皆さんも「今夜はソフィストケート」を聴きなおしてください。(*´▽`*)
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このブログでは「松田聖子の楽曲を研究することが目的」なので音楽理論の基礎の説明については基本的には簡単にしかしませんので、もし理論で分からないところがあったら専門書を買って読むか、他のブログを読むなりするのがいいと思います。
単に音楽理論について学ぶならば、ものすごくわかりやすく丁寧に解説しているサイトが多数あります。(/・ω・)/
それでは皆さん、次回の記事で会いましょう!(@^^)/~~~