松本隆作品から学ぶ作詞の極意!~「今夜はソフィストケート」歌詞研究・後編
- 1.「ワイングラス」は彼女の内面を表している
- 2.「ハートのイアリング」の彼は「今夜はソフィストケート」の彼なのか?
- 3.「小道具」の役割とは?
- 4.全体像について
- 5.作詞の極意、テクニックのまとめ
こんにちは、研究員第一号のいっきゅうと申します!
今回は前回の記事の続き、後編ですね!(*´・ω・`)b
前回の記事はこちら↓
seiko-laboratory.hatenablog.com
楽曲研究の方はこちら
seiko-laboratory.hatenablog.com
前回、「小道具」の話が中途半端なところで終わって消化不良だったので、今回は「小道具」の話を軸にしていこうかなと思います。
1.「ワイングラス」は彼女の内面を表している
とりあえず、結論から言ってしまいます。
劇中に登場する「ワイングラス」は主人公の彼女そのもののメタファー(隠喩)です。
この曲では主人公の心情を直接描写せずに、「ワイングラス」というアイテムを使って彼女の内面を繊細に表現しています。
どういうことか、後で細かく説明していきますね!( ・∇・)
2.「ハートのイアリング」の彼は「今夜はソフィストケート」の彼なのか?
「ハートのイアリング」と「今夜はソフィストケート」はとても似ていると思いませんか?
まず、作詞作曲編曲歌手全て一致していますよね。(しかも佐野元春さんが聖子に提供した曲はこの2曲だけ)
楽曲のアレンジの方向性も同じですし、2つの歌詞を見比べているといくつかの類時点を見つけることができます。
2.1主人公(女性)の性格
まず、この二曲の主人公は性格が似ています。
STAY WITH ME 気にしてるの? ハートのイアリング
他の誰かにもらったの 嘘のつぶやき
これはハートのイアリングの1番Aメロ部分の歌詞です。
自分の気持ちに素直じゃない、つい彼を困らせてしまう彼女がよく表現されています。
そういえば、今夜はソフィストケートでも主人公は裸足で踊って男を困らせていましたよね。
2.2軽い男の描写
この二曲に出てくる男は、両者ともかる~い男だと描写されている。
例えば、「ハートのイアリング」での彼は主人公に対して基本冷めた態度をとっています。
男は妬きもしないし、勝手に違う女の子とロードショーに行ってしまうわけです。
それでも彼女は
あの娘は友達と 笑いとばしてみて
すぐに明るく許してあげるわ
と言っているので、彼のことが本当に大好きだということが分かるのですが、
サヨナラと今言ったの?
遠すぎて聞きとれないわ
……とまあ、彼に振られてしまうわけですねえ。
そういえば、「今夜はソフィストケート」で彼女は
昔軽く振られたお返しに
なんてことを言っていましたね……。
では、「今夜はソフィストケート」の男はどうでしょうか。
知らず知らずに聞き出したあなたの話
新しい恋人に少し飽きたみたいね
同じことの繰り返し 戻って来ても
つぶらな眼の娘を 追うまの 乗り継ぎの駅
はい、完全にかる~い男です本当にありがとうございました。m(__)m
こうしてみると、「ハートのイアリング」の男と同一人物説は結構濃厚な線なんじゃないかと思いますよね。
男から降ったのにも関わらず、新しい恋人に飽きてまた昔の女(=主人公)に「食事でも」と誘ってきた、ということですかね。
しかし彼女は、男が心から自分を好きなわけではなく、「ただのつなぎの女扱い」だということを分かっているんです。
切ないっ!!!(ノД`)・゜・。
2.3やはりつながっている
確たる証拠があるわけではありませんが、僕は「今夜はソフィストケート」は「ハートのイアリング」の少し未来の話だと思います。そう考えると全て辻褄が合うのです。
もちろん、この結論に至る根拠はこれだけではないんですよ。
これから先の話は今回の記事で一番重要というか、根幹を成すところなので是非見てください!必見ですよ!
3.「小道具」の役割とは?
そういえば、冒頭で「小道具」の話を軸にする、なんてことを僕は言いましたね。
「ハートのイアリング」。。。何か気づきませんか?
そう!!
歌詞に登場するキーアイテムが、そのまま曲のタイトルになっているのです!!
そしてこの曲でのハートのイアリングは、「主人公が彼に対して抱いてる想い」のメタファーです。
おやおや、記事の冒頭とつながってきましたね!(*´▽`*)
3.1彼女は一度彼と「決別」している
イアリングが「主人公が彼に対して抱いてる想い」のメタファーであるというのはどういうことか。
彼女は、彼にもっと構ってほしくて、振り向いてほしくてイアリングをつけました。
そこには間違いなく、彼を愛する気持ちがあり、彼女は
彼が振り向いてくれるまでずっとイアリングを付けたままでした。
ところが彼が振り向いてくれることはなく、他の女の子に現を抜かされ挙句の果てには「サヨナラ」と言われてしまうわけですね。
そして、
背中を見送ってそっと外したイアリング
道に捨てれば雪がかくすでしょう
春になる頃あなたを忘れる
となるわけです。
もうお分かりですね?
イアリングを外して捨てた行為は、彼との決別を表しているのです。
もちろん、「今夜はソフィストケート」でも彼女は彼と復縁することはありません。
もしもそんなことをしたら折角の「ハートのイアリング」でのラストシーンが台無しです!
……ところでですよ、皆さんはこのラストの歌詞を見て何か気づきませんか?
……気づかないという方のために、分かりやすく「ハートのイアリング」のラストと「今夜はソフィストケート」の最初の部分を並べて引用してみます。
背中を見送ってそっと外したイアリング
道に捨てれば雪がかくすでしょう
春になる頃あなたを忘れる
忘れた頃に鳴り出した なつかしいベル
食事でもしないかって 低い声が流れる
……前回の記事で僕はこう言いました。
「エナメルの靴」「裸足」という同類項(どちらも足に関連するもの)の言葉をつなげる(Aメロの終わり、Bメロの始まりに配置)ことで、聴き手は違和感なくすんなりと情景を思い浮かべることができます。
……もうお気づきですね?(。-`ω-)
そうです!
「ハートのイアリング」の最後の「忘れる」と、「今夜はソフィストケート」の最初の「忘れた」を連結させているのです!
同類項どころかまんま同じ言葉です!
これに初めて気づいた時はもう鳥肌が立ちましたね。(; ・`д・´)
ここまでくるともう作詞家(つまり松本隆さん)が意図的にやっているとしか思えません。
3.2「今夜はソフィストケート」における「小道具」の役割
さあ、ここからが一番の本題ですね!
念のためもう一度言いますが、劇中に登場する「ワイングラス」は主人公の彼女そのもののメタファー(隠喩)です。
例えば、
ワイングラス とりあげないで
とあります。
これは、彼女をまた自分のものにしてしまおう(取り上げよう)という男に対する拒否の気持ちを表しています。
それから、サビのこちらのフレーズ。
ワイングラス片手に持って
そうよ こぼさないように踊るの
ここまで読んだ賢い皆さんならもう言われなくても分かりますよね!(*´▽`*)
ワイングラスを使って彼女の心情を表現していることがよく分かると思います。
また、
想い通りにならないと まるでだだっ子
不機嫌な声をして 空のボトル振ってる
という歌詞が途中ありますが、「空のボトル」は男の内面のメタファーであり、
「気障に気取ってるけど、男の中身は空っぽである」ことを暗に示しているんですね。
3.3なぜ「小道具」を使うのか
「小道具」を使って人物の心情を描写することで、直接的な描写を極力避けることができます。
そうすることでより詩的な空気を作り出すことができます。
それから、印象的なワードを何度も入れることで、曲が耳に残りやすくなるということもあるでしょう。
たとえば、言わずと知れた超名曲である「赤いスイートピー」。
冷静に考えれば「赤いスイートピー」ってなんだよって思うかも知れませんが、それでも「赤いスイートピー」というワードがとても印象的なので一発で覚えますし耳に残りますよね!つまりそういうことです。
そしてもう一つは前回の記事にも書いたことですが、
一つの言葉、単語に(物語上において)複数の意味を持たせる
という教えを実行しやすいのが「小道具」だからという理由です。
詳しくは前回の記事でどうぞ(*´▽`*)
seiko-laboratory.hatenablog.com
4.全体像について
「ハートのイアリング」では、終始彼女は男に振り回されていて、言ってしまえば弱い女でしたが、
「今夜はソフィストケート」では逆に男が彼女のペースにまんまと振り回され、文字通り「不機嫌」になっています。
主人公が成長して、「あの頃より少し強くなった」のですね!
また、こうしてみると、この2曲が対比構造にもなっているのが分かりますね。
5.作詞の極意、テクニックのまとめ
なんやかんやでまた4000文字を超えてしまいました。( ;∀;)
今までの研究結果をかんたーーんにまとめてみると、
- 導入からインパクトを残す
- 具体的な言葉を使う(あやふやを避ける、リアリティが増す、強調等の効果)
- 「省略」を大胆に使う
- 「つなぎ方」を考える
- 一つのワードに複数の意味、役割を持たせる
- 「小道具」を上手く使って人物の心情描写などを行う
もちろん、ここで研究したこと以外にも歌詞を書く上で重要なこと、テクニック等はまっだまだあります。
研究員の僕としても、より歌詞の世界を知るためにもっと精進しなければなりませんね。
また、釘をさすようですが、曲がよくないと折角の歌詞も生きない、ということをお忘れなく。
そして、やはり大事なのは曲の世界の表現者である歌い手です。
どんなに曲が良くてどんなに歌詞が良くても、歌手が凡ならばそれは伝わらないでしょう。
しかし、この曲(この曲だけに限りませんが)は聖子さんの素晴らしい歌唱によって命を吹き込まれています。
このような優れた表現者(歌手)がいて初めてこうした良曲が外の世界に出ていくと考えると、聖子ちゃんには頭を向けて眠れませんね。(*'▽')
それでは皆さん、次回の記事で会いましょう!バイバーイ!(@^^)/~~~</p
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